お茶の時間
神無月のお菓子「月夜」と室礼
十月のお月見、十三夜
神無月の喫茶に、ようこそ。
さらりと通る風が、秋ですね。
9月の十五夜は有名ですが、実は10月にもお月見の機会があります。これが、十三夜。
秋のお月見は 収穫祭の意味合いもある行事。
9月の十五夜には「芋名月」、続く十三夜には「栗名月」という別名がついています。
今月の喫茶のお菓子の銘は「月夜」。
希少な白小豆の練り切りに、季節の栗を滋味深く とりあわせて。
十月の本席(奥の八畳の茶室)のしつらい
お茶の世界では、十月は「名残(なごり)の月」と呼ばれます。何をもって名残なのかーこれには諸説があるのですが、今月は菓子にもお道具にも、少し寂びた美しさを留め置くこととしています。
どこかもの寂しく侘しい風情。
だけれども理屈っぽく小汚い室礼にしたのでは、いかにも自己満足で いただけない。
十月は、wabi-sabiスキルが問われる、難しい月なのです。
さて、お軸。
軸はお茶席のオーナーの意図するところや、季節感を表現するもの。「開炉一行 春懐紙 夏は短冊 秋は文」という言葉があるそうです。
その言葉通り、秋はどこか暖かな人の気配がする「文=手紙」を軸に使うのにふさわしい時季。
こちらは小堀遠州の手紙を軸としたもの。書流は定家様で書かれています。
秋の某月26日のお茶会の待ち合わせについて、弾むような気持ちが伝わってくるような文。
小堀遠州といえば、垢抜けた美しさの表現が持ち味の江戸大名であり、茶人。
wabi-sabiの世界に、美しさや豊かさを加えた”綺麗さび”と呼ばれる茶道を確立した人物といわれています。
和歌や書に精通し、茶道具のデザインを系統立てて把握できるような仕組みを作ったかと思えば、日本を代表する建築・造園の作事奉行でもあったというから、これぞ天才。
あわせた屏風は、小堀遠州と深い仲であった”松花堂”好みの風炉先屏風。
「松花堂ってお弁当・・?」
と思った方はご明察。
現代では『松花堂弁当』の語源で知られる松花堂昭乗は、僧侶であり寛永文化人のトップスターでもありました。
お茶碗は、古楽山の茂山写し。
「楽山燒」は”茶どころ”と称される松江で、藩政時代に御用窯として名を馳せた窯元。
金継ぎされた茶碗が綺麗さびの世界を彩ります。
十月の立礼席のしつらい
「立礼席(りゅうれいせき)」とは、椅子とテーブルの茶室。茜庵本店で喫茶をご利用のお客様には、こちらのスペースでお菓子をお楽しみいただきます。
こちらの席も、今月は名残の世界観を踏襲。
月夜の海女の漁をうたったお軸に、釣船の花入。ゆらぐ影をうつして、コーディネート。
欠けをつくろい、割れを継ぐー 慈しみの美がことさらに愛おしい、10月は、そんな季節です。
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しつらいとは、和のコーディネート遊びのようなもの。
リラックスしてお菓子を召し上がっていただけるだけで何よりですが、しつらいの遊び心まで覗き見ていただくと、ちょっとお楽しみが増えるかもしれません。