お茶の時間
霜月のお菓子「秋風舞う」と室礼
秋風舞う
霜月の喫茶に、ようこそ。
足元も、ささやく季節となりました。
今月は 色づく木立ちの間をスッとぬける 風の気配を、お菓子に。
お茶の世界では「正月」ともよばれる、はれやかな時頃。大納言の小豆をしのばせて。
十一月の本席(奥の八畳の茶室)のしつらい
今月の主役は、この「炉」(ろ)。
11月からの冬の時季は、畳の下に備え付けられている小さな囲炉裏のような「炉(ろ)」を用い、湯を沸かしはじめます。
これを「炉開き」といいます。
また、その年に摘んだ新茶が詰まった茶壺の口を開ける「口切り」も同じ頃に行わるので、11月は「お茶の正月」とも呼ばれます。
炉開きに解禁されるものがいくつかありまして、まずは「陶磁器」の香合(こうごう)。
茶道の席では場を浄めるために、お香を焚く習わしがあります。
そのお香も、11月からは練香を用いられます。
そのまま目線を上にあげ、お軸のはなしに続きます。
「難々易々不易不難」江戸時代の画家、高嵩谷(こうすうこく)の画。
まずは文字にご注目。
古くは漢王朝で用いられた「隷書」という字体で書かれています。
「隷書」は格の高いフォント。
現代では紙幣に用いられているというと、ピンとくる方も多いのでは。
右下には、霊昭女。
唐代の禅学者「龐居士」の娘で、彼女自身も優れた禅学者でありながら、あるときは竹籠を売り、またあるときは花を売って家計を支えた苦労人のようです。
口元を隠しているところに、ちょっとウィズコロナも感じますが 古くより禅宗の画題として用いられている人物モチーフなのだとか。
茶席の花も季節に合ったものが使われますが、炉の季節に床の間を彩るのは椿。
「炉の花は椿」とは、茶人の間では言い慣わされた言葉です。
炉開きにふさわしい、晴れやかで、凛とした雰囲気。
合わせた黒の茶碗は、青山御所の茶室「秋泉亭」に茶碗を献上した折、残土で作陶されたもの。
立礼席のしつらい
「立礼席(りゅうれいせき)」とは、椅子とテーブルの茶室。
茜庵本店で喫茶をご利用のお客様には、こちらのスペースでお菓子をお楽しみいただきます。
今月も「秋は消息」ということで、10月に引き続き、「手紙」を軸に使います。
先月からお馴染みの寛永文化界のトップスターであり、「松花堂弁当」の語源となった「松花堂昭乗」によるもの。
文の内容は、不在を詫びる挨拶の体ではあるものの「私は摂政のアテンドをしているので 不在なのですよ」と、さりげないアピールのようにも思うわけですが、これ如何に。
銀杏の蓋置きに、茶碗で鮮やかな山の装いを重ねます。
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しつらいとは、和のコーディネート遊びのようなもの。
リラックスしてお菓子を召し上がっていただけるだけで何よりですが、しつらいの遊び心まで覗き見ていただくと、ちょっとお楽しみが増えるかもしれません。
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