お茶の時間
弥生のお菓子「平安の春」
古都の春に思いを馳せて
ただ無事に冬を越すことが、殊更に厳しい古都の時代。
春の訪れがどんなに恋しかったことかと、思いを馳せることがあります。
待ち侘びた季節の訪れ、華やぐ山の装いと浮き立つこころ。
蓬風味の外郎生地に、丹波大納言の粒あんをふくよかに包んで。
三月の本席(奥の八畳の茶室)のしつらい
毎月 お菓子とのコーディネートをお楽しみいただく室礼、今月は 平安の世にお連れいたします。
まずはお軸にご注目。
平安のスーパーヒロインにして大河ドラマの主人公、紫式部を描いたもの。
由緒ある家に女児が誕生の折、赤子の父が阿波画壇の湯浅桑月にオーダーした お慶びの一幅。
「赤子の誕生月と桃の節句に掛けるように」との父からの但し書きとともに、大正時代より代々に受け継がれている軸。
式部の目元にご注目。所謂「平安美人」と比べてぱっちりと描かれた姿に近代を感じます。
式部の足元には、 美之主貝(ビノスガイ)の香合。こちらは近左の手によるもの。
茶道具に目線をうつしてまいりましょうか。
柳が描かれた町棗(まちなつめ)。町棗とは、利休登場以後に無名の漆工により作られた棗の総称。
作者不詳の大雑把なもの、粗末なもの、といった意味合いの言葉ですが、なかなかエレガントだと思う訳です。
水指の絵柄は、青海波ー実は、この柄の発祥は古代ペルシャだとされています。いつまでも続く穏やかな波の姿は、平和への願いがこもった伝統模様。
花と水ーさくらの茶碗は、千家十職、永楽善五郎の手によるもの。
立礼席のしつらい
「立礼席(りゅうれいせき)」とは、椅子とテーブルの茶室。
茜庵本店で喫茶をご利用のお客様には、こちらのスペースでお菓子をお楽しみいただきます。
お茶の世界でも、桜はいくつも重ねて良しとされる 別格の存在。
黒楽の存在感で、しっとりと季節を重ねます。
松寿千年の翠(しょうじゅせんねんのみどり)、の軸をあわせます。
移ろいやすい世の中、春の華やぎ。そのなかでも黙とした不変の緑を保ち続けることの美しさも、そっと心に留め置いて。
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しつらいとは、和のコーディネート遊びのようなもの。
リラックスしてお菓子を召し上がっていただけるだけで何よりですが、しつらいの遊び心まで覗き見ていただくと、ちょっとお楽しみが増えるかもしれません。
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