お茶の時間
弥生のお菓子「春がきた」と室礼
三月のお菓子の銘 「春がきた」
庵のつくばいで、水浴び中の小鳥と目が合って。
早春の訪れを感じます。
例年この季節には、淡く可憐な上生菓子が登場するのですが 今年もまあ、なんとも愛らしいこと。
山に、里に、さまざまな花が咲き始めた よろこびの姿。
滑らかな 外郎生地と、きんとんで 「山」を表現しました。
中の餡には、はんなりと さくらを忍ばせて。
3月の本席(奥の八畳の茶室)のしつらい
先月に引き続き 今月も本席の室礼は見所がたくさん。
春風に ゆうらり、ゆうらりと揺れるのは、釣釜(つりがま)。こちらは3月のお楽しみ。
通常、釜は炉の中に設置した五徳の上に乗せます。
「釣釜」では五徳を取り除き、天井に打たれた蛭釘(ひるくぎ)から少し小ぶりの釜を釣り下げます。
3月になると暖かくなってくるので、炉を深くすることで少しの火で湯が沸くようにして客人をもてなします。
春には水温む(みずぬるむ)という季語があるけれど、「ぬるむ」という優しく繊細な表現は、いかにも日本の春らしいように思います。
鴛鴦の香合をあわせて。
お軸は、春入千林処々花ー(はるいりてせんりんしょしょのはな)。
「春入千林處々花 秋沈満水家々月」 (春ハ千林二入ル処々ノ花、秋ハ万水二沈ム家々ノ月)
禅句からきているお軸。
花々に注ぐ春の陽光のように、また秋の美しい月の光のように。
万物の区別を越えて、恵みは等しくもたらされるべきである、というような意味合いでしょうか。
優しい方向に、むかう春となりますように。
立礼席のしつらい
「立礼席(りゅうれいせき)」とは、椅子とテーブルの茶室。
茜庵本店で喫茶をご利用のお客様には、こちらのスペースでお菓子をお楽しみいただきます。
甲赤の平棗に、雪洞(ぼんぼり)の蓋置き。
一枝桜(ひとえだざくら)の茶碗は、お茶席に座わっているだけで、なんとも艶やか。
ですが、抹茶をいれた姿が やはり一番よく映るように思います。
旧暦でお雛祭りをされるお客さまも多くいらっしゃいますので 立礼は引き続き、節句のお軸でお迎えいたします。
しつらいとは、和のコーディネート遊びのようなもの。
リラックスしてお菓子を召し上がっていただけるだけで何よりですが、しつらいの遊び心まで覗き見ていただくと、ちょっとお楽しみが増えるかもしれません。