お茶の時間
卯月のお菓子「朝掘りきんとん」と室礼
竹の子には、旅をさせるな
瑞々しい、みどりの季節となりました。
和食の大家といえば、北大路魯山人。
京都から東京まで鮎を電車で運ばせた逸話は有名ですが、その魯山人でさえ、竹の子には旅をさせなかったー必ず産地で食するべしと書き残しています。
竹の子は光に敏感な野菜。光を感じるとかたくなり、あくも強くなる。
また、竹林は早朝までは水分を多く含むため、「朝掘り」こそが、新鮮で美味しい。
ほんのりと山椒でスパイスをきかせた、初夏のきんとん。おいしい竹の子の産地でもある、地元徳島の自然さまに感謝した一品です。
四月の本席(奥の八畳の茶室)のしつらい
今月も まずはお軸から参りましょう。朧月夜をうたった、名残の春の画讃。
「苫(とま)あけて 前は江口や 朧月」
現代語訳) 朧月に誘われて外にでてみたら、船から 江口(花街)の明かりがみえて、あぁ 遊びに行きたいなぁ
三十石船に乗った、サラリーマンが 朧月夜に一句、という風情でしょうか。
“三十石船”とは 徳川幕府公認の交通手段で、京・伏見と大坂を往復した旅客船のこと。
今でいう 高速バスのようなもので、庶民の手軽な足だったようですが。
ご覧くださいな、この ほにゃらとしたお顔。
これは幕末の画家、岸竹堂によるもの。
そして「酔墨」と書かれてあります。
「酔墨」とは”お酒の席で酔って描いた戯れの画”という意味。
それにしては、レイアウトも落款もビシっと決まっているので、本当に酔っ払って描いたものなのかは、ちと怪しい…。
水を連想させる波柄とシックな紙の表装にも、心憎い数寄者のセンスを感じます。
「あぁ 遊びに行きたいなぁ」の目線の先には、 耳付花丸草花の水指と、煌びやかな住之江の棗を重ねて、艶やかな花街の風情に思いを馳せるお軸の世界に応えます。
立礼席のしつらい
「立礼席(りゅうれいせき)」とは、椅子とテーブルの茶室。
茜庵本店で喫茶をご利用のお客様には、こちらのスペースでお菓子をお楽しみいただきます。
朧月は、春の季語。秋の澄んだ月に対し、水蒸気のベールがかかったように見えることから、この季節ならではとされています。
どこか朧な風情のお軸とともに、季節の花と、手桶の装い。
古曽部焼の茶碗は、蕨に見立てて。
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しつらいとは、和のコーディネート遊びのようなもの。
リラックスしてお菓子を召し上がっていただけるだけで何よりですが、しつらいの遊び心まで覗き見ていただくと、ちょっとお楽しみが増えるかもしれません。
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